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参議院選挙と米国上院選挙

 2016年7月の参議院選挙では、一票の格差を小さくするため、人口の少ない県同士を統合する合区を初めて導入した。具体的には、隣り合う鳥取と島根、徳島と高知を一つの選挙区として「合区」としたのである。

 この「合区」は、地方の声が国政に反映されにくくなるといった批判がなされている。「合区」解消のための一つの論として、参議院を地域代表として位置づけなおして(現行憲法国会議員を「全国民の代表」と規定する)、人口に応じて定数を決めるのではなく、都道府県単位で定数を割り当てるという考え方がある。

 都道府県単位で定数を割り当てるような選挙の方法の場合、当然、一票の格差は未解決のままであるが、それを正当化する論拠として、米国の上院選挙が援用されることがある。例えば、千葉大学名誉教授である新藤宗幸氏は、あるべき参議院選挙について、以下のように述べる。

 二院制を取る諸外国では、日本の衆院に当たる下院はできる限り1票の価値が平等になるように議席を配分しているが、参院に当たる上院は必ずしもそうではない=別表参照 。米国の上院は各州均等に2人ずつ定数を割り当て、70倍近い格差を許容している。地方分権が進んだフランスの上院も参考になる。日本でも知事や県議会議長など地方自治体の代表者で構成する院があってもいい

【参院選 高知 合区を問う】(6=終) 千葉大学名誉教授 地域切り離せない|高知新聞

【出典】 「【参院選 高知 合区を問う】(6=終) 千葉大学名誉教授 地域切り離せない」『高知新聞』2016年6月2日

 また、日経新聞でも、民進党桜井充参院議員による、以下の提言が取り上げられている。

民進党桜井充参院議員の提言が興味深い。国会が公職選挙法を抜本改正して「衆院選は単純な人口割り、参院選は地域代表制」という理念を明確に打ち出すというものだ。

 桜井氏は「日本は世界でも例外だ。違う選び方にしないと二院制の意味がなく、米国上院は各州の定数が2の地域代表制で1票の格差は実に60倍。例えば参院都道府県をすべて定数2にする」と訴える。

www.nikkei.com

【出典】「秋風しみる参院選改革」『日本経済新聞』2016年11月6日

 参議院を地域代表とすべしとの考え方の根底に、米国上院の選挙制度があるわけであるが、民主主義の根幹をなす選挙制度は、その国固有のあり方や成り立ちと密接に関わっており、他国の制度を参照することにどこまで意味があるか甚だ疑問である。

 先日、池上彰氏の『そうだったのか!アメリカ』を読み、米国の正式名称United States of Americaが示しているとおり、米国とは50の「国」(日本では「州」と訳している)が「連合」している国家であることがよくわかった。

 英国からの植民者が作り上げた13の「国」がそれぞれ発展していく過程で、英国との独立戦争を勝ち抜く。その後の1789年の合衆国憲法を機に、それぞれの「国」が連合して新たな国家を形成することとなったのである。

 米国上院は各州の定数が2の地域代表制であるが、各州がそれぞれが独立した「国」であったという米国の成り立ちを踏まえたものであると考えられる。そういった点を考慮しないで、米国の選挙制度を安易に援用することは意味がないのではないか。

 

 先日の米国大統領選が行われたが、全米の得票数ではヒラリー氏のほうが多かったようである。米国大統領選の選挙方式である「選挙人制度」がトランプ氏に有利に働いたのであるが、このような「選挙人制度」は日本人にとってはわかりづらく、ややこしい制度であるとの印象も受ける。なぜ、このような制度が現在まで維持されているのか。池上氏によれば、それは「アメリカ建国当時の伝統を守っているから」だという。

 米国でもこのような「選挙人制度」を見直す議論もあるようだ。それぞれの国の価値観、立法府のあり方や意義、民意の反映の仕方など、様々な観点から選挙制度を決めることが肝要であり、他国の制度はあくまでも参考にすぎない。

<参考文献>

 

そうだったのか!アメリカ (集英社文庫)

そうだったのか!アメリカ (集英社文庫)